境界性人格障害治療における力動学的精神療法
境界性人格障害治療における力動学的精神療法
境界性人格障害治療における力動学的精神療法
私は他サイトにおいて、子供たちが感情的に不安定な境界性人格障害傾向を持つ両親の精神状態を安定させようと、無意識的にある一定の役割を演じてしまう傾向について説明しました。(これは主にアダルトチルドレンと呼ばれています)皮肉なことに、この種の子供たちは、そうすることによって、家族が予測不可能な状態に陥り機能不全な関係パターンに陥るのを未然に防ごうとしているわけです。
この記事では私は「力動学的精神療法が境界性人格障害の患者にどのように作用するか」について見ていきます。その前に境界性人格障害とは何なのかについてはこちらをご覧ください。→境界性人格障害 (※英語)
私が呼ぶBPDとは、感情が極めて不安定であり、同時に他人を平気で巻き込んでいくタイプの精神障害を指します。他人を巻き込まない自責的傾向のものは境界性人格障害と呼ぶには値せず、アダルトチルドレン(AC)で十分であると考えます。私は境界性人格障害を生み出す要因の一つに機能不全家族のダイナミクスを見ます。
この障害について精通していない読者のために簡潔に境界性人格障害の本質を説明しますと、「境界性人格障害とは、対人的な駆け引きを過剰に他人に欲求する人格のトラブル(障害)である」ということができます。彼らの非常に混沌とした対人関係は、そのさ中において、自分の感情をコントロールする能力の過度の欠如、そしてその衝動制御の困難さ、および彼ら自身、自分の人生を生きるうえで必要なアイデンティティが欠如し、何のために生きているのかわからないという混乱状態に陥っていると特徴づけることができます。
しかしながら、境界性人格障害は統合失調症のような精神病ではなく、対人関係が極めて悪いと周囲から評される人たちであり、同時に非常にネガティブな発言や言行が多いため、安直に誤解されやすい人格特性を持つ人々であるということができます。彼らの多くの場合、リストカットのような自傷行為を平気で行い、または他の方法によって自分自身を傷つける行いを常習的に繰り返します。彼らの頭の中には常に自殺念慮があり、また怒りの制御の問題も同時に抱え込んでいる上、根強い対人不信感を示し、一過性の解離障害に陥る場合もありますが、これは自我基盤の脆弱さ(゠アイデンティティの欠如)に由来するものであります。
境界性人格障害の患者は神経症ほど自我は強くないのですが、統合失調症というほど自我は脆弱ではないとされる患者の一群で、主に1950年代の米国で医師により、その特性が看過されるようになりました。この一連の患者群を当時の精神科医は境界性人格障害(゠神経症と統合失調症の境界域に存在する)とネーミングしたわけです。
このような境界性人格障害の傾向を示す当事者をセラピストや心理療法家、カウンセラーの元で力動学的精神療法のような治療を受けさせてみても、実はその問題を解決することはほぼ不可能です。そのため、心理療法家やセラピストは、例外的に境界性人格障害の患者はお断りとしているところも少なくありません。(最もお金儲けのためにそのような患者を利用するサイコパス傾向の濃厚なセラピスト、カウンセラーも存在します。)実際問題、精神科医やカウンセラー、セラピストの間においても境界性人格障害の患者への対応は多大な精神力が必要になるため、忌避されることが多く(カウンセラーや精神科医が自殺に追い込まれることもある)、治療者には超人的な精神力が要求されます。
しかしながら、興味深いことに、境界性人格障害の患者は、しばしば、優れた対人コントロール能力を有しているとセラピストによって報告されることがあります。普通の人は、瞬時に他人の長所と短所を把握することは中々できませんが、この障害の人においては、他人の欠点と美点を、いち早く見抜き、その相手の弱点に付け込んだ上に、対人操作を行うという報告もなされています。しかしながら、これは誤りでしょう。
単純な私の回答をここで述べますと、境界性人格障害の患者は対人コントロールはできません。これを行うのが得手なのはBPDの患者ではなく、サイコパス(反社会性人格障害)の人間です。(サイコパスは境界性人格障害と非常に混同されやすい)
逆に境界性人格障害の患者は「すべて良い」あるいは「すべて悪い」という両極化された二文法化思考、白黒思考しかできないので、患者の両親または支援をしてくれている友人や恋人、伴侶を途方に暮れさせる行動を延々と繰り返してしまうことも少なくないわけです。
他方、サイコパスは予測能力や共感性を著しく欠いているため、他人の弱みに付け込んだ行動を良心の呵責なしに比較的容易に為してしまうわけです。
境界性人格障害の患者の行動の多くは、しばしば、大幅な修正が必要であると考えられるのはとても自然なことです。その理由は境界性パーソナリティ障害とは脳の病気そのものであるからであります。他方、遺伝学において境界性人格障害では遺伝要因が濃厚であるとされる研究論文も多数上梓(じょうし)されていますが、もう一方においては境界性人格障害は病気ではなく、乱れた家族関係の中から、その子供たちに同時発生する傾向が存在しうる機能不全家庭に由来する性格の一種であるに過ぎない、あるいは純粋にPTSDが悪化したモノであると定義する専門家も中にはいます。
しかしながら、力動学的精神療法は境界性人格障害の治療としてうまく機能しません。
それには主に二つの理由があります。まず、第一に私は境界性人格障害の患者に対応するための今現状における最善の精神療法、心理療法であると信じられている力動学的精神療法は全くもって無意味であると看過しているからです。
上に書いてきたように、力動学的精神療法はあくまでも古典的心理学から派生した精神治療法にすぎず、脳の機能障害、脳の生化学的障害を無視し、患者との対話によって、患者を治療していこうとするこの種の試みは完全に理論破壊されているものであると見なしているからです。 -BPDの患者の多くは自立して生きていかなければいけないのにも関わらず、延々と心理療法、精神治療法うんぬんを精神科医や臨床心理士に繰り返され、振り回されています。いわば精神科医や心理療法士と患者が共依存の関係に陥ったりしてしまう誤謬(ごびゅう)も良くある話なのです。
そして境界性人格障害の患者をセラピストたちは、たらいまわしにし、効果のない治療法を半永久的に繰り返し続けているわけです。一回1万円のセッションでも一年間続ければ50万円もかかります。このように力動学的精神療法を境界性人格障害の患者に施している臨床心理士たちは比較的少額に感じますが、(1万円はそこまで少額ではないがまだまだマシな方ではある)効果のない治療法をちまちまと、そして半永久的に継続し、患者を奴隷化し患者からお金をぼったくっている者たちがこの業界では日常茶飯の話になります。
特にアメブロなどで集客しているようなセラピスト、カウンセラーにはこの匂いがプンプンします。
(全部が全部とは決して言いませんが・・・)
私は基本的に境界性人格障害とは重大な脳障害がその根底にあると確信していますので、力動学的精神療法は境界性人格障害の治療法として非常に効果のないものであると断言することが可能です。
第二に、冒頭において話した境界性パーソナリティー障害は遺伝要因の高さも去ることながら、これらの患者は、ほぼ確実に機能不全家族(親からの精神的虐待、肉体的暴力、性被害)からも由来しているようにも見えます。そのような深刻な家族の病理も家族歴において有している場合が少なくないからです。力動学的精神療法を家族にまで行うのは患者家族の資金的な問題も無視していますし、家族まで患者扱いされると多くのファミリーは治療を頓挫することになるかと考えるからです。
大多数の研究によると、児童虐待やネグレクトのような精神的虐待は境界性人格障害の発症要因として、最も一般的な素因とされています。それは生物学的、心理的、あるいは社会的な要因とともに危険因子とされています。もちろん、必ずしも虐待を受けたりネグレクトを受けたすべての子供が境界性人格障害を発症するわけでもなく、ある研究によると、実際問題、この障害を持つ多くの患者は、性的または肉体的な虐待の経歴はありませんでした。
したがって、私には遺伝要因がまず強烈にBPDの発症に加担し、それとともに家族間における機能障害(機能不全家族)が患者のメンタルヘルスを損ない続けた結果、境界性人格障害を発症してしまうという説を経験者の立場から指摘します。
(出典:一卵性双生児の研究において境界性人格障害の発症率は高い)
途方もなく複雑な要素(原因)によって生み出された - - 「ボーダーライン」ファミリー(Borderline Family)゠機能不全家族の基本的問題は、両親もまたそのまた両親の犠牲者であるということを頭の片隅に置いておく必要があります。こう書いていくと境界性人格障害とは、環境要因によって生み出されるものであるかのように錯覚に陥ることがあります。しかしながら、境界性人格障害は遺伝要因が非常に濃厚であるという大前提は非常に重要です。遺伝要因が先にあった後に、環境要因が相互的に境界性人格障害の遺伝子発現を高めてしまっているというわけです。このような流れを斟酌(しんしゃく)してみればわかりますが、境界性人格障害治療において力動学的精神療法は機能しません。
はっきりいって、全くの気休め以下の効果しか出ないのです。
繰り返し述べたように、遺伝要因によって生み出されたものであることを考えれば簡単に分かります。
虐待されてきた子供は、健全な育成を阻害され、また無意識にそれを拒否し、親または彼ら彼女らの支配者的存在に何らかの方法で依存状態に陥り続けていることが多く、このような関係性を心理学の分野では共依存と呼びます。親が子供に依存し、子供も親に依存しているというケースです。(婚姻関係でこれが夫妻に起きる場合もある)共依存も適度であれば、むしろ好ましく健全なものですが、それが過度になると、やはり精神病理学の棚上にあげて問題提起していかなければいけないでしょう。
ですからこの種の境界性人格障害の問題が顕在化してきた場合、親は「子供が一方的に悪い」と非難し、子供は「親が一方的に悪い」という揶揄を飛ばすことが普通なのですが、「正確な回答はどちらも悪い」です。
しかしながら、子供は所詮(しょせん)子供であるわけですから、冷静に判断すれば悪いのはどう考えても親の方です。このことは、小学生と立派な成人が喧嘩になりようがないことを考えればよくわかることです。
マーシャリネハンは、境界性人格障害の治療において最も顕著で最新の心理療法(治療モデル゠弁証法的行動療法)の創案者で、「無秩序で混沌とした家庭環境が、過感情的なBPDの二つの主要な原因のうちの一つであることと主張しています。そして、遺伝的傾向も濃厚にあると・・・ "と話しています。彼女は特にどのような環境が境界性人格の殺傷に関連しているかどうかを明確にはしていませんが、環境もその発症に確実に関与していると言っています。
ただし、彼女の弁証法的行動療法もあまりうまくいかないことが多いという報告が国際論文によって多数発表されています。
(参考:)
・境界性人格障害の治療における弁証法的行動療法
【境界性人格障害治療における力動学的精神療法についての私の評価】
力動学的精神療法は境界性人格障害の治療においてほとんど無意味です。時間の無駄です。心理学(心理療法、精神療法)では心の病気は治りません。
何故かと申しますと境界性人格障害とは純粋な脳の機能障害であるからです。
人と対話したりして、認知を修正したり、自分を客観視する程度で改善するような軽い脳機能障害ではないからです。
【当サイト全記事一覧】
・境界性人格障害の治療における入院療法
・境界性人格障害の治療における弁証法的行動療法
・境界性人格障害の治療におけるメンタライゼーション療法
・境界性人格障害の治療における認知行動療法
・境界性人格障害の治療における薬物療法
(最終更新:2018/03/23)
境界性人格障害治療における力動学的精神療法
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